カスタマーハラスメントを知っていますか?
令和元年6月5日に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、労働施策総合推進法等が改正されました。本改正により、職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。
これを踏まえ、令和2年1月には、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が策定されました。この指針において、事業主は、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(いわゆる「カスタマーハラスメント」)を防止するための取組を行うことが望ましいとされています。
不当・悪質なクレームは、従業員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースも見られるなど、企業や組織に金銭、時間、精神的な苦痛等、多大な損失を招くことが想定されます。
カスタマーハラスメントについては、国において、企業向けの対策リーフレットや対策マニュアル等を作成しているほか、カスタマーハラスメントに関する相談をメールまたはSNS(LINE)で受け付けています。
また、消費者に向けて、「消費者が意見を伝える際」のポイント等の周知・啓発のためのチラシやポスターも作成されています。
ここでは、カスタマーハラスメントに対する対策情報サイトをご紹介いたします。ご覧いただき、カスタマーハラスメント対策にご活用ください。
消費者庁「消費者教育ポータルサイトSTOP!カスタマーハラスメント」
目次
カスタマーハラスメントとは
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥協性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものが、カスタマーハラスメントに該当すると考えられます。
「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」や、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの」の例としては、以下のようなものが想定されます。
「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例
- 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
- 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例
(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 威圧的な行動
- 土下座の要求
- 継続的(繰り返し)、執拗な(しつこい)言動
- 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
- 差別的な行動
- 性的な言動
- 従業員個人への攻撃・要求
(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)
- 商品交換の要求
- 金銭補償の要求
- 謝罪要求(土下座を除く)
カスタマーハラスメントの判断基準
社内であらかじめカスタマーハラスメントの判断基準を明確にした上で、企業内の考え方、対応方針を統一し、現場と共有しておくことが重要です。
企業、業界によって様々な判断基準がありますが、一つの尺度として、次の2つの観点で判断することが考えられます。
①顧客等要求内容に妥当性はあるか
顧客等の主張について、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、根拠のある要求がなされているかを確認し、顧客等の主張が妥当かどうか判断します。
②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か
顧客等の要求内容の妥当性の確認と併せて、その要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかを確認します。
なお、殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスタマーハラスメントに該当すると判断できることはもとより、犯罪に該当しうるものです。
また、カスタマーハラスメントとして取り扱うかどうかに関わらず、顧客等からの行為で従業員の就業環境が害され、就業に支障が生じるようであれば、企業として従業員からの相談に応じる、複数名で対応する等の措置が必要となります。
カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組み
企業がカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを構築するため、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応として、以下の取組を実施する必要があると考えられます。
カスタマーハラスメントを想定した事前の準備
① 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
② 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
③ 対応方法、手順の策定
④ 社内対応ルールの従業員等への教育・研修
カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応
⑤ 事実関係の正確な確認と事案への対応
⑥ 従業員(被害者)への配慮の措置
⑦ 再発防止のための取組
⑧ ①~⑦と併せて講ずべき措置(相談者のプライバシー保護、相談を理由とした不利益な取扱いの禁止等)
カスタマーハラスメントに発展させないために
初期対応においては、まずは誠意ある対応をしつつ、状況を正確に把握し、事実確認をする必要があります。現場対応の場合は、不要なトラブルを避けるため、初期対応の時点で複数名で対応するのも効果的です。
発展させないためのステップ
1. 対象を明確にして謝罪する
2. 状況を正確に把握する
3. 現場監督者(一次相談対応者)または相談窓口に情報共有する
発展させないための対応
現場での対応
- 場所を変え、複数で対応する。
- 相手が感情的になっていても、丁寧な話し方で冷静に対応する。
- 詳細に情報を確認し、メモを取って要点を確認する。
- 議論は避け、問題を解決しようとする前向きの姿勢を見せる。
- その場しのぎの回答はしない。
- 後で確認して回答するなど冷却期間を設ける。
電話での対応
- 苦情専用電話を設置し、録音が出来るようにしておく。
- 第一受信者が責任を持ち、問い合わせ案件のたらい回しをしない。
- メモを取りながら話を聞き、復唱して確認する。
- 即時回答できない内容については、事実を確認してから追って返事をする。
顧客訪問による対応
- 冷静になりにくい夜間や早朝の訪問は避ける。
- 喫茶店など周囲から聞かれる場所や決められた場所以外には行かない。
- あらかじめ問い合わせ内容への対応方針を決めておく。
- できるだけ二人で訪問する。
カスタマーハラスメント対策に取り組むことによるメリット
カスタマーハラスメント対策に取り組む企業からの声として、業務において経験が蓄積されることで迷惑行為への対応がスムーズになった、顧客対応のノウハウが整理できた、従業員が働きやすくなったといったものなどがあり、対策に積極的に取り組むことによって職場環境の向上につながることが期待されます。
企業においては、カスタマーハラスメント対策を進めることで、前向きな効果が期待でき、カスタマーハラスメント対策に取り組む意義は大きいと考えられます。
参考リンク:
職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html