男性従業員の育休取得、中小企業はどのようにして推進していくべきか?

育休の取得は年々増えてきていますが、男性の育休取得率は未だに低いままなのが現状です。

事業主として今後「育休制度」を推進し、男性従業員にも育休を取得してもらうためには、どのような対策が必要でしょうか?

育休制度を設ける目的や企業側の負担そしてその対応策を検討し、改めて育休取得に向けて何を行わなければならないのかを考えてみましょう。

中小企業における育休取得の実態

日本商工会議所の調査によると「男性社員の育児休業取得の義務化」について、「反対」と回答した企業の割合は70.9%(※1)となっていました。
この結果は人材・財務など様々な面での中小企業での育休取得のためのハードルを表しているものと言えます。

また、日刊工業新聞とYahoo!ニュースによる共同企画調査では男性の育休について自社の実態についてアンケートを取っていますが、その中で大企業は男性の取得率53.2%に対して中小企業では18.8%(※2)と中小企業での育休取得実績は半分以下です。

育休を取得しなかった人に理由を聞くと、中小企業、大企業とも最も多かった回答は「制度がない」となっています。

これらの結果を見ると、日本においては中小企業での育休の取得、特に男性の取得はまだまだ課題が多い状態と言えそうです。

※1:日本商工会議所:「「多様な人材の活躍に関する調査」の集計結果について ~女性、外国人、高齢者の活躍推進に向けての課題が明確に~」より
https://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2020/0924140000.html

※2:ニュースイッチ:「男性育休「中小は制度がない、大企業は言い出しにくい」それぞれの苦悩」より
https://newswitch.jp/p/27208

育休取得は、企業側に拒否権なし

育児休業の取得は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」において以下の通り定められています。

第六条 事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。

この記述の通り、原則として労働者側から育休取得について申請が出た時点で事業主としては拒否権がありません。
また、男女の定めもないことから女性だけではなく男性についても申請を拒否することができません。

前述のニュースでは育休に対して事業主側が及び腰な実態が見えていますが、実際は育休取得の条件を満たしてながら育休取得を拒否すると法律上の義務に違反する形となってしまいます。
法令順守の意識を持ち、企業として拒否することのないよう担当者に対してもしっかりと周知しておくようにしましょう。

企業にとっての影響

多くの事業主が積極的な活用まで至っていない育休制度ですが、そもそもの法令の目的は「子が保育所などに入所できず男女労働者が退職を余儀なくされる事態を防ぎ、さらに育児をしながら働く男女労働者が、育児休業などを取得しやすい就業環境の整備等を進めていくこと」です。

人材不足が叫ばれている中、制度を活用することによって定着率を向上させることで中長期的な人材確保を確保することが企業としてあるべき姿勢ではないでしょうか?
また、ある程度短期的な観点で見ても以下のようにポジティブな影響も見えてきます。

ES(従業員満足度)が向上する

育休制度がある場合、ない企業と比較して福利厚生が手厚く、特に20代~30代の社員に対して会社がサポートする意思があると言うメッセージとなります。
若年層の定着率の向上は中長期的に見た採用コストの削減、ナレッジの積み上げにつながります。

業務改善意識が高まる

育休を取得する人が出ると、該当の部門やチームは一時的に人員が不足しがちです。
急な退職などとは異なり育休は比較的早い段階から取得がわかるもののため、事前に体制を再検討しどのようにして業務効率を上げて仕事が回るようにするべきかを考える必要が出てきます。
結果として育休明けで従業員が戻ってきたときには元の業務量以上に業務をこなすことができる体制が整う形になり、新たな事業への投資や事業拡大に向けたリソースとして活用できるようになります。

くるみん認定等による企業価値向上

中小企業で働く方であれば営業や採用活動の際、知名度のなさからなかなか結果に結びつかなかった記憶がある企業は多いのではないでしょうか?
その対応のひとつとして挙げられるのが「くるみん認定」です。
くるみん認定は厚生労働省が認定する「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証です
一定要件を満たせば申請することが可能で、くるみんマークなどを付すことが可能となる他公共調達における加点評価も得られます。

厚生労働省:「くるみんマーク・プラチナくるみんマークについて」より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html

 

しかし、新たな取り組みを行う際は同時に新しい課題も見えてくるのが常でもあります。
以下は想定される企業の負担(課題)です。

社内リソースが不足する

現場として真っ先に挙がる問題がここかと思います。
50人いるチームであれば1人抜けても2%の減で済みますが、5人のチームであれば1人抜けると単純計算で20%減る形になります。
中小企業は当然余剰人員を抱えているケースは少ないためリソース不足が深刻になります。

属人的作業の対応コスト増

日々の業務に忙殺されてしまうと、どうしても社内共有よりも目の前の業務への対応が最優先となってしまいます。
結果として個々の顧客に対する対応や作業についてのノウハウなどが属人化してしまい育休で抜けてしまった瞬間にトラブルに発展してしまう可能性があります。

復帰時にリソース調整が必要

育休で問題になりがちなのは育休に入るタイミングだけではありません。
復帰の仕方についてもトラブルが発生することがあります。
例えば新しい体制でちょうど業務が回っている場合、余剰人員となってしまい適した業務がない場合があったり、復帰したはいいものの遅出、早退が頻出し業務の調整がしにくくなってしまうなどが想定されます。

 

直面すると悩んでしまうことが多い人材面の課題ですが、乗り越えることで組織として強くなる側面もあります。
事前に課題の洗い出しと対応の検討を行い、組織強化のタイミングとして活用しましょう。

人員が不足する事態への有効な対策は?

人的リソースがないと様々な業務に支障が出てきます。
だからこそ、育休は拒否できないことを前提とした場合事前に有効な対応策を講じておくことが重要です。
参考までにいくつか対策として考えられるものをお伝えします。

「やらなくても良い作業」を洗い出す

人的リソースへの対応策で最も重要なのがこの「やらなくても良い作業」の洗い出しです。
往々にして現在行っている業務については維持したいのが人間の性ではありますが、企業運営の観点で言うと「慣例的にやってきたが今ではあまり意味をなさない会議」「手間は大きいが売上・利益にはつながりにくい業務」「●●さんだけが行ってきた業務」などはある程度削減可能な業務です。
従来から定期的に「人員が今の半分になったら売上を維持するために優先しなければならない業務は何か?」といった問いを投げかけ、やらなくても良い業務を炙り出しておきましょう。

業務フローを見直す

現在の業務フローは最小限の工数で最大限の成果を出せるものになっているでしょうか?
個人レベル・チームレベル・部門レベルそれぞれで見たときに全体最適となっているか、フォーマットが共通化されていて誰がやっても同じ結果を返すことが可能かなど業務フローについて見直しを行い、効率化できる部分を探しましょう。

ツールで代替できるフローを置き換える

近年DX(デジタルトランスフォーメーション)と言う言葉がよく聞かれるようになりました。
デジタルツールを活用することで人的リソースをかけている業務を効率化していくこともDXのひとつの形です。
コストがかかるので導入に二の足を踏む企業もありますが、精度・速度については定型業務において人間がツールを超えることはほぼなく、コストについても1か月あたりでツールがこなせる量と人間がこなせる量を比較するとツール導入の方が安く上がるケースも多々あります。
その分人間には事業拡大のための企画など、人間にしかできないことに集中してもらうことで適材適所を叶えることができます。

 

事前にこれらの検討を行っておくことで、育休に限らず組織として人材不足の穴を埋められるポテンシャルを手に入れることが可能となります。

育休の体制整備に活かせそうな助成金

育休制度について、きちんと運用できる体制を整えるためには当然それなりの投資が必要です。
しかし中小企業はそこにかけられる予算の捻出が難しいケースがあるのもまた事実です。

この場合、政府や地方自治体が行っている助成金や相談制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか?
現在育休制度に絡んだ助成金については以下の助成金があります。 

働き方改革支援助成金

生産性を向上させ、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境整備に取り組む中小企業へ向けた助成金です。

以下のAにある取り組みを行い、その成果としてBにある目標を達成することで最大100万円が支給されます。
賃金の引き上げを行った場合はそれに加えて上限240万円の加算額が支給されます。

A:支給対象となる取り組み~いずれか1つ以上を実施~
① 労務管理担当者に対する研修(※1)
② 労働者に対する研修(※1)、周知・啓発
③ 外部専門家によるコンサルティング
④ 就業規則・労使協定等の作成・変更
⑤ 人材確保に向けた取り組み
⑥ 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新(※2)
⑦ 労働能率の増進に資する設備・機器などの導入・更新(※2)
(※1) 研修には、業務研修も含みます。
(※2)原則として、パソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

B:成果目標~1つ以上を選択の上、達成を目指して取り組みを実施~
① 全ての対象事業場において、月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数を縮減させること。
 ・時間外労働と休日労働の合計時間数を月60時間以下に設定
 ・時間外労働と休日労働の合計時間数を月60時間を超え月80時間以下に設定
② 交付要綱で規定する特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)のいずれか1つ以上を全ての対象事業場に新たに導入すること。
③ 時間単位の年次有給休暇制度を、全ての対象事業場に新たに導入させること。

上記の成果目標に加えて、指定する労働者の時間当たりの賃金額を3%以上または、5%以上で賃金引き上げを行うことを成果目標に加えることができます。

厚生労働省:「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

男性労働者が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りに取り組み、子の出生後8週間以内に開始する連続14日以上(中小企業は連続5日以上)の育児休業等を取得した男性労働者が生じた事業主への助成金で最大72万円が支給されます。
※個別面談など育児休業の取得を後押しする取組を導入、実施した場合

厚生労働省:「2021年度の両立支援等助成金の概要」より
https://www.mhlw.go.jp/content/000754580.pdf

働き方改革アドバイザーへの相談

千葉県が実施している事業で働き方改革関連法への対応や生産性向上との両立に関する課題解決へのアドバイス等、企業の状況に合わせた支援を行います。
※「働き方改革アドバイザー」は社会保険労務士、中小企業診断士、経営コンサルタント等、経営支援の専門家です。

サービスは無料で提供されており、「同一労働同一賃金に対応した給与制度や就業規則の整備を行いたい」「人材の定着・確保のため、育児・介護と仕事の両立など働きやすい職場環境を整えたい」「従業員の時間外勤務を削減して、生産性を向上させたい」など企業の実情に応じて様々な支援を行っています。

令和3年度働き方改革アドバイザー派遣及びテレワーク導入支援について
https://www.pref.chiba.lg.jp/koyou/worklifebalance/hatarakikata/r3hatarakikata.html

 

積極的に活用し、自己負担を抑えつつ自社の強化を図ってみてはいかがでしょうか?

企業のトップが育休取得を推進し、強い組織への変革を

この記事の最初で書いた通り育休取得は拒否権がありません。
だからこそ企業は意識を「取得を前提としてどのように対応するべきか」に変革をする必要があります。

企業のトップが腰を据えて組織改革に取り組めば、中小企業だからこそのスピード感と柔軟性で適応していくことも可能です。
このタイミングで組織・業務の見直しを行い、より効率的な働き方を行う方法を模索し強い組織になる機会にしてみてはいかがでしょうか。

そのためには事前に想定される課題を洗い出し、自分たちだけでは実現できない場合はシステム・ツールの導入や助成金の活用、アドバイザーによる第三者の目を入れるなども含めた選択肢を把握しておくのが効果的です。

育休を取得できる環境では中長期的な従業員の育成計画を立てることも可能になります。
働き方改革が推進されているこの機に育休を推進できる体制を整えて企業価値を高め、新しい人材確保の足掛かりにしてみてください。