男女間の賃金格差解消に向けて

男女の賃金の差異の情報公表が常用労働者301人以上の大企業に対し、義務化されます!

 近年、急速な少子化と高齢化の進行により人口減少時代を迎えており、今後労働力人口の減少も見込まれる中、女性の就労を促進するとともに、働く女性が就業意欲を失うことなく、その能力を発揮できる環境を整備することが重要です。法整備等の進展に伴い、企業において女性の職域が拡大し、管理職に占める女性の割合も上昇傾向にあるなど、女性の活躍が進んでいます。

一方で、労働者全体を平均して見た時の男女間賃金格差は依然として存在しており、令和3年の一般労働者の男女間賃金格差は、男性100に対し、女性75.2となっています。

こうした男女間賃金格差の現状を踏まえ、令和478日に女性活躍推進法に関する制度が改正され、情報公表項目に「男女の賃金の差異」が追加されるとともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務付けられることとなりました。

女性の活躍に関する「情報公表」が変わります!

令和4年7月8日の施行に伴い、初回「男女賃金の差異」の情報公表は、施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。

■労働者301人以上の事業主は、以下のACの3項目の情報を公表する必要があります。

    ※常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主は、下記16項目から任意の1項目以上の情報公表が必要です。

    ※「男女の賃金の差異」は、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合(パーセント)で示します。
    ※「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の区分での公表が必要です。

     

    厚生労働省「女性の活躍に関する「情報公表」が変わります」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000961793.pdf

    男女の賃金の差異の公表例について

    ※小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで表示。
    ※計算の前提とした重要事項を付記(対象期間、対象労働者の範囲、「賃金」の範囲等)。

    ■付記事項の例
    対象期間:●●事業年度(●年●月から●年●月まで)【必須】
    賃金:基本給、超過労働に対する報酬、賞与等を含み、退職手当、通勤手当等を除く。
    正社員:出向者については、当社から社外への出向者を除き、他社から当社への出向者を含む。
    パート・有期社員:期間工、パートタイマー、嘱託を含み、派遣社員を除く。

    任意の追加的な情報公表について

    「男女の賃金の差異」以外の情報を任意で追加的に公表できます。

    • 求職者等に対して、比較可能な企業情報を提供するという目的から、「男女の賃金の差異」は、すべての事業主が共通の計算方法で数値を公表する必要があります。
    • その上で、「男女の賃金の差異」の数値だけでは伝えきれない自社の実情を説明するため、事業主の任意で、より詳細な情報や補足的な情報を公表することもできます。
    • 自社の女性活躍に関する状況を、求職者等に正しく理解してもらうためにも、『説明欄』等を活用し、追加的な情報の公表をご検討ください。

     

    厚生労働省『男女の賃金の差異の算出方法等について』
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962288.pdf

    情報公表の方法について

    男女の賃金の差異の公表に当たっては、他の情報公表項目と同様に、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社ホームページ等により、求職者等が容易に閲覧できるようにする必要があります。

    女性の活躍推進企業データベースURL
    https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/

    厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html

    「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」について

    男女間賃金格差の縮小に向けて、賃金や雇用管理のあり方を見直すための視点や、性別を問わず社員の活躍を促進するための実態調査票等の支援ツールを盛り込んだ内容となっています。

    【ガイドラインのポイント】

      1.賃金・雇用管理の制度面の見直し
      2.賃金・雇用管理の運用面の見直し
      3.ポジティブ・アクションの推進

    男女間格差の「見える化」を推進

    男女間の格差の縮小のためには、まず現状を「見える化」することで実態を把握し、改善の必要性に「気付く」ことが重要です。「見える化」の方法としては、あなたの会社の採用、配置、昇進・昇格、賃金などさまざまな雇用管理データを男女別に集計・指標化したり、統計データに現れてこない社員の意識をアンケート調査することなどが考えられます。

    下記の支援ツール(実態調査票・社員意識調査アンケート)を活用して「見える化」を進めることができます。
    (使い方については厚生労働省「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」8ページをご参照ください)

    厚生労働省「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku09/pdf/02.pdf

    「男女を問わず社員の活躍を促進するための賃金・雇用管理に関する実態調査票」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ned3-img/2r9852000000okym.docx

    「男女を問わず社員の活躍を促進するための社員意識調査アンケート」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ned3-img/2r9852000000olji.xls

    賃金・雇用管理の見直しのための3つの視点

    男女間賃金格差の実態を把握した上で、賃金・雇用管理に問題がないか、以下の3つの視点に立った対応策が求められます。

    1. 公正・明確かつ客観的な賃金・雇用管理制度の設計とその透明性の確保(制度面)
    2. 配置や仕事配分、人材育成など、賃金・雇用管理の運用面における取扱いの見直し・改善(運用面)
    3. 過去の性差別的な雇用管理や職場に根強く残る固定的な男女の役割分担意識によって事実上生じている格差を解消するための取組(ポジティブ・アクション)

    1.賃金・雇用管理の制度面の見直し

    (1)公正・明確・透明な賃金制度
    賃金表が未整備であったり、賃金決定や昇給・昇格の基準が不明確・不透明になっている場合、性別による賃金差別や男女間賃金格差につながりかねないことから、各企業においては、公正・明確な賃金・雇用管理制度の整備を行うとともに、労働者に対して適切な情報提供を行うことにより制度の周知を図り、透明性を高める必要があります。

    (2)公正・明確・透明な評価制度
    多くの企業において、能力評価や業績評価の形で人事評価が行われ、その結果は昇進、昇格等とともに賃金に反映されています。このため人事評価は、評価者によって偏りが生じたり、一方の性に不利にならないよう、明確で公正かつ客観的な基準を設定し、その基準や結果を労働者に開示することにより、労働者の納得性を高め、公正・明確・透明な制度を構築することが重要です。
    さらに、全ての労働者に対して制度統一的に適用するとともに、評価基準に基づいた客観的かつ適正な評価が行われるよう、人事評価を行う管理職に対する研修を定期的に実施するとともに、客観性を担保するため、複層的な評価や評価結果のフィードバック等が行われるようにすべき、と示されています。

    (3)仕事と生活の調和の実現に向けた取組の推進
    基幹的労働者に見られる長時間労働等を前提とした働き方は、特に家庭責任を担っている労働者にとって働き方の選択肢を狭めることとなっており、男女間賃金格差解消の観点からは男性の育児や家事への参加を促進するとともに、こうした働き方を見直すことが求められています。
    このため、各企業においては、育児・介護休業法等に基づく仕事と家庭の両立支援のための制度を整備し、男女を問わず労働者が安心して利用できる職場環境を整備するとともに男性も含めた働き方の見直し等を進める必要があります。

    2.賃金・雇用管理の運用面の見直し

    (1)女性の配置、職務の難易度、能力開発機会の与え方、評価についての改善
    男女雇用機会均等法は、配置、昇進等あらゆる雇用管理の段階における性別を理由とする差別を禁止しています。各企業においても、配置に当たって女性を排除していないか、男性を優先していないか、業務の配分や権限の付与に当たって男女で異なる取扱いをしていないか、一定の役職への昇進に当たり男性を優先して昇進させていないか、教育訓練の対象から女性を排除していないか等、男女雇用機会均等法により禁止されている取扱いがなされていないか十分確認を行い、取扱いの見直しを行うことが重要です。

    (2)コース別雇用管理における適正な運用の促進
    コース別雇用管理は、本来は労働者を意欲、能力、適性等によって評価し、処遇するシステムの一形態として導入されてきたものですが、その運用において、基幹的な業務を担当するコース等における男女の採用や配置の比率に偏りがみられ、結果としてコース間の処遇の差が男女間賃金格差の要因となっていると考えられることから、男女雇用機会均等法に即した雇用管理となるよう、コース別雇用管理制度の設定が合理的なものとなっているかどうか精査する必要があります。
    また、育児や介護を行っている労働者にとって、転勤が継続就業を困難にしたり、仕事と家庭の両立のための負担を著しく大きくする場合があるため、育児・介護休業法により、転勤を命ずる場合には、育児や介護の状況に配慮しなければならないこととされていることにも留意する必要があります。

    3.ポジティブ・アクションの推進

    過去の性差別的な雇用管理や職場に根強く残る固定的な男女の役割分担意識により、企業において男女労働者の間に事実上生じている格差を解消し、女性の能力発揮を図るために、事業主が積極的かつ自主的に雇用管理の改善(ポジティブ・アクション)に取り組むことは、男女間賃金格差の要因を除去する方向につながるものであり、各企業において積極的に取り組むことが求められます。

     

    厚生労働省『職場での女性の活躍を推進するポジティブ・アクション』
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku04/pdf/140523-01.pdf

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