適切な価格転嫁と生産性向上による持続的な賃上げに向けて
【はじめに】
2024年春闘での賃上げ率は、1991年以来33年ぶりとなる5.1%を達成しました。2021年から連続して過去最高の引上げとなる中、今後も引上げが続くことが見込まれます。
千葉県内では2024年1月に、行政、労働団体、経済団体などで構成される「ちばの魅力ある職場づくり公労使会議」において、『「適切な価格転嫁と生産性向上による持続的な賃上げの実現」ちば共同宣言』が採択されました。
この共同宣言を通じて、労務費を含む適切な価格転嫁や、サプライチェーン全体の付加価値の向上と共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」への参加、生産性向上に向けた働き方改革や業務効率化、働き手のスキルアップに向けた人材育成やリ・スキリングなどが促進されるよう、行政や関係団体が連携・協力して取り組んでいます。
一方で、賃金の引上げについては、規模が小さい中小企業にとっては負担が重く、不安を抱いている事業者の方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、持続的な賃上げに向けた適切な価格転嫁や生産性向上に関する主な取組や支援事業等をご紹介します。
(参考資料)令和6年1月19日「ちばの魅力ある職場づくり公労使会議」
https://www.pref.chiba.lg.jp/koyou/kouroushikaigi/20240119.html
適切な価格転嫁と生産性向上による持続的な賃上げの実現
原材料価格等の高騰や人手不足が企業の事業活動に大きな影響を及ぼす中、持続可能な地域経済の構築には、企業の成長、賃上げ、消費拡大という好循環を生み出していく必要があります。そのためには、中小企業を含む全ての企業が賃上げを持続的に行うことができるよう、労務費を含む適切な価格転嫁を進めるとともに、生産性向上などに取り組むことが重要です。
国はこの取引環境の整備の一環として、労務費の転嫁の在り方についての指針として「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定しました。次の項目では、同指針の概要と具体的な対応ポイントについて解説します。
労務費の適切な価格転嫁のための価格交渉に関する指針
◆発注者として採るべき行動/求められる行動
- 行動① 本社(経営トップ)の関与
- 行動② 発注者側からの定期的な協議の実施
- 行動③ 説明・資料を求める場合は公表資料とすること
- 行動④ サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
- 行動⑤ 要請があれば協議のテーブルにつくこと
- 行動⑥ 必要に応じ考え方を提案すること
長年にわたるデフレ経済を脱却し、成長と分配の好循環に向けて、特に労務費の転嫁が重要であることは、一般論としては認識されているとしても、経営トップが自社の取組方針として認識していなければ、労務費の転嫁の実現は困難です。
また、特に労務費については、発注者においても受注者においても、その上昇分は自社の生産性や効率性の向上を図ることで吸収すべき問題であるとの考え方が深く根付いていることから、発注者の経営トップが、たとえ短期的にはコスト増となろうとも、労務費上昇分の取引価格への転嫁を受け入れていく具体的な取組方針や施策について意思決定し、社内の交渉担当者や、取引先である受注者に対し、その要旨などを示すといった経営トップの関与が求められています。
◆受注者として採るべき行動/求められる行動
- 行動① 相談窓口の活用
- 行動② 根拠とする資料
- 行動③ 値上げ要請のタイミング
- 行動④ 発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示
物価に負けない賃上げを行うためには、受注者としても積極的に価格転嫁の交渉をしていくことが求められています。他方、労務費の上昇を理由とする価格転嫁の交渉については、受注者としてもどのように臨めばよいか戸惑うことも多いことが想定されますが、国等で設置している価格転嫁に関する相談窓口を活用して積極的に情報収集を行い、交渉に挑むことが大切です。
(相談窓口)よろず支援拠点
全国47都道府県に設置している「よろず支援拠点」に「価格転嫁サポート窓口」を設置しています。価格転嫁サポート窓口では、価格交渉に関する基礎的な知識や原価計算の手法の習得支援を通じて、下請中小企業の価格交渉・価格転嫁を後押しします。
https://yorozu.smrj.go.jp/base/
◆発注者・受注者の双方が採るべき行動 / 求められる行動
- 行動① 定期的なコミュニケーション
- 行動② 交渉記録の作成、発注者と受注者の双方での保管
多くの場合、発注者の方が取引上の立場が強く、受注者からはコストの中でも労務費は特に価格転嫁を言い出しにくい状況にあることを踏まえると、日頃から、気軽に相談できる関係を築けていなければ、受注者の置かれている環境の変化などに適時適切な対応が行えず、対応が後手に回るといった弊害が生じることも考えられます。日頃から積極的にコミュニケーションをとり、価格転嫁のことを含めて何でも相談もしやすい関係を構築することが必要です。
(参考資料)公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針【概要】」
https://jsite.mhlw.go.jp/saitama-roudoukyoku/content/contents/001750905.pdf
(参考資料)公正取引委員会「労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針【全体】」
https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/001738653.pdf
(参考資料)厚生労働省「賃金引上げに向けた取組事例」
賃金引上げの事例として、賃金引上げに向けた取組内容、そのポイントや従業員の声などを掲載しています。
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/jirei
パートナーシップ構築宣言
賃金引上げや人材確保を進めるためには、コスト上昇分を適切に価格転嫁できる環境を整備することが必要です。パートナーシップ構築宣言とは、事業者が、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から、「代表権のある者の名前」で宣言するものです。パートナーシップ構築宣言では、下記の(1)(2)を宣言します。
(1)サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携
- オープンイノベーション
- IT実装
- グリーン化 等
(2)下請企業との望ましい取引慣行(「振興基準」)の遵守
- 価格決定方法
- 型管理などのコスト負担
- 手形などの支払条件
- 知的財産・ノウハウ
- 働き方改革等に伴うしわ寄せ
(参考資料)パートナーシップ構築宣言ポータルサイト
https://www.biz-partnership.jp/index.html
賃金引上げに向けた支援情報
国や県では、賃金引上げに向けた各種支援策及び賃金引上げ、生産性向上、業務効率化のための各種助成金等に関する情報を掲載しています。ぜひ、ご参考になさってください。
(参考資料)厚生労働省「賃金引き上げ特設ページ」
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/chingin/
(参考資料)千葉県「中小企業者向け助成金」
千葉県では、千葉県産業振興センター等と連携して、県内の中小企業者向けに様々な助成金等を準備しています。
https://www.pref.chiba.lg.jp/keisei/zaisei/shiensaku.html
(参考資料)厚生労働省・中小企業庁「最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策」
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/dl/shienshisaku_2024_02.pdf
(参考資料)厚生労働省・経済産業省・中小企業庁「最低賃金引き上げに伴う支援・後押しを強化しています」
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/dl/shienjoho_2024_02.pdf
(参考資料)厚生労働省「賃上げに取り組む経営者の皆様へ ~政府は、賃上げに取り組む企業・個人事業主を応援します~」
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/dl/chinagesokushinzeisei_reaflet.pdf
(参考資料)厚生労働省・中小企業庁「最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル」
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/dl/manual_2024_02.pdf
(参考資料)厚生労働省「業務改善助成金のご案内」
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成します。
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/chusyo/index.html
(参考資料)厚生労働省「最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援事業」
厚生労働省では、経済産業省と連携し、最低賃金の引上げにより、影響を受ける中小企業に対して以下の支援を実施しています。
(参考)最低賃金とは
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
最低賃金には、各都道府県に1つずつ定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。「特定(産業別)最低賃金」は「地域別最低賃金」よりも高い金額水準で定められており、地域別と特定(産業別)の両方の最低賃金が同時に適用される労働者には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用されます。
(参考資料)厚生労働省「あなたの賃金を比較チェック」
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/point/page_point_what.html
(参考資料)厚生労働省「地域ごとの平均的賃金」
以下のリンクから都道府県別に、年代別や業種・職種別の平均的な賃金額が検索できます。
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/table/