男性従業員の育休取得、中小企業はどのようにして推進していくべきか?

育休の取得は年々増えてきていますが、男性の育休取得率は未だに低いままなのが現状です。

事業主として今後「育休制度」を推進し、男性従業員にも育休を取得してもらうためには、どのような対策が必要でしょうか?

育休の取得を促すためには、育休を取得しやすくなるよう制度を設けることや、男性従業員も育児休業を取得して当たり前という職場環境にしていくことが必要ではないかと考えられます。

そのような職場環境づくりに向けて、育休制度を設ける目的や企業側の負担そしてその対応策を検討し、改めて育休取得に向けて何を行わなければならないのかを考えてみましょう。

男性の育児休業取得率の状況

厚生労働省の令和4年度「雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は17.13%であり、女性の育児休業取得率80.2%と比べると、依然として低い数値となっています。

同調査の事業所規模別の取得率は、500人以上で25.36%100人~499人で21.92%であるのに対し、529人の事業所は11.15%であり、小規模な企業ほど取得率が低くなる傾向があります。

また、令和53月の厚生労働省の調査「令和4年度仕事と育児の両⽴等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」では、男性(正社員・職員)が育児休業を取得しなかった理由をみると、「収⼊を減らしたくなかったから」が39.9%でもっとも回答割合が⾼く、次いで「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」が22.5%、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」が22.0%と、職場の雰囲気や育休に対する支援制度の理解が進んでいないことが、取得が進まない要因の一つと考えられます。

令和5年6月に策定された「こども未来戦略方針」では、民間における男性の育児休業取得率の目標を令和7年に50%、令和17年に85%と定めており、更なる取組が必要です。

育休取得は、企業側に拒否権なし

育児休業の取得は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」において以下の通り定められています。

第六条 事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。

この記述の通り、原則として労働者側から育休取得について申請が出た時点で事業主としては拒否権がありません。

また、男女の定めもないことから、女性だけではなく男性についても申請を拒否することができません。そのため、実際は育休取得の条件を満たしていながら育休取得を拒否すると、法律上の義務に違反する形となってしまいます。

法令順守の意識を持ち、企業として拒否することのないよう、担当者に対してもしっかりと周知しておくようにしましょう。

企業にとっての影響

多くの事業主が積極的な活用まで至っていない育休制度ですが、そもそもの法令の目的は「子が保育所などに入所できず男女労働者が退職を余儀なくされる事態を防ぎ、さらに育児をしながら働く男女労働者が、育児休業などを取得しやすい就業環境の整備等を進めていくこと」です。

人手不足と言われる中、制度を活用し、従業員が育児休業を取得しやすい職場環境を整えることによって、中長期的な人材を確保することが企業としてあるべき姿勢ではないかと考えられます。
また、ある程度短期的な観点で見ても以下のようにポジティブな影響も見えてきます。

ES(従業員満足度)が向上する

育休制度がある場合、ない企業と比較して福利厚生が手厚く、特に20代~30代の社員に対して会社がサポートする意思があると言うメッセージとなります。
若年層の定着率の向上は中長期的に見た採用コストの削減、ナレッジの積み上げにつながります。

業務改善意識が高まる

育休を取得する人が出ると、該当の部門やチームは一時的に人員が不足しがちです。
急な退職などとは異なり育休は比較的早い段階から取得がわかるもののため、事前に体制を再検討しどのようにして業務効率を上げて仕事が回るようにするべきかを考える必要が出てきます。
結果として育休明けで従業員が戻ってきたときには元の業務量以上に業務をこなすことができる体制が整う形になり、新たな事業への投資や事業拡大に向けたリソースとして活用できるようになります。

くるみん認定等による企業価値向上

中小企業で働く方であれば営業や採用活動の際、知名度のなさからなかなか結果に結びつかなかった記憶がある企業は多いのではないでしょうか?
その対応のひとつとして挙げられるのが「くるみん認定」です。
くるみん認定は厚生労働省が認定する「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた証です
一定要件を満たせば申請することが可能で、くるみんマークなどを付すことが可能となる他公共調達における加点評価も得られます。

厚生労働省:「くるみんマーク・プラチナくるみんマークについて」より
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html

 

しかし、新たな取り組みを行う際は同時に新しい課題も見えてくるのが常でもあります。
以下は想定される企業の負担(課題)です。

社内リソースが不足する

現場として真っ先に挙がる問題がここかと思います。
50人いるチームであれば1人抜けても2%の減で済みますが、5人のチームであれば1人抜けると単純計算で20%減る形になります。
中小企業は当然余剰人員を抱えているケースは少ないためリソース不足が深刻になります。

属人的作業の対応コスト増

日々の業務に忙殺されてしまうと、どうしても社内共有よりも目の前の業務への対応が最優先となってしまいます。
結果として個々の顧客に対する対応や作業についてのノウハウなどが属人化してしまい育休で抜けてしまった瞬間にトラブルに発展してしまう可能性があります。

復帰時にリソース調整が必要

育休で問題になりがちなのは育休に入るタイミングだけではありません。
復帰の仕方についてもトラブルが発生することがあります。
例えば新しい体制でちょうど業務が回っている場合、余剰人員となってしまい適した業務がない場合があったり、復帰したはいいものの遅出、早退が頻出し業務の調整がしにくくなってしまうなどが想定されます。

 

直面すると悩んでしまうことが多い人材面の課題ですが、乗り越えることで組織として強くなる側面もあります。
事前に課題の洗い出しと対応の検討を行い、組織強化のタイミングとして活用しましょう。

人員が不足する事態への有効な対策は?

人的リソースがないと様々な業務に支障が出てきます。
だからこそ、育休は拒否できないことを前提とした場合事前に有効な対応策を講じておくことが重要です。
参考までにいくつか対策として考えられるものをお伝えします。

「やらなくても良い作業」を洗い出す

人的リソースへの対応策で最も重要なのがこの「やらなくても良い作業」の洗い出しです。
往々にして現在行っている業務については維持したいのが人間の性ではありますが、企業運営の観点で言うと「慣例的にやってきたが今ではあまり意味をなさない会議」「手間は大きいが売上・利益にはつながりにくい業務」「●●さんだけが行ってきた業務」などはある程度削減可能な業務です。
従来から定期的に「人員が今の半分になったら売上を維持するために優先しなければならない業務は何か?」といった問いを投げかけ、やらなくても良い業務を炙り出しておきましょう。

業務フローを見直す

現在の業務フローは最小限の工数で最大限の成果を出せるものになっているでしょうか?
個人レベル・チームレベル・部門レベルそれぞれで見たときに全体最適となっているか、フォーマットが共通化されていて誰がやっても同じ結果を返すことが可能かなど業務フローについて見直しを行い、効率化できる部分を探しましょう。

ツールで代替できるフローを置き換える

近年DX(デジタルトランスフォーメーション)と言う言葉がよく聞かれるようになりました。
デジタルツールを活用することで人的リソースをかけている業務を効率化していくこともDXのひとつの形です。
コストがかかるので導入に二の足を踏む企業もありますが、精度・速度については定型業務において人間がツールを超えることはほぼなく、コストについても1か月あたりでツールがこなせる量と人間がこなせる量を比較するとツール導入の方が安く上がるケースも多々あります。
その分人間には事業拡大のための企画など、人間にしかできないことに集中してもらうことで適材適所を叶えることができます。

 

事前にこれらの検討を行っておくことで、育休に限らず組織として人材不足の穴を埋められるポテンシャルを手に入れることが可能となります。

男性育休の整備に対する支援

両立支援助成金(令和5年度)

厚生労働省では、職業生活と家庭生活が両立できる「職場環境づくり」を行う事業主を支援するため、両立支援等助成金を支給しています。
なお、令和61月から両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」が新設され、育児休業や育児短時間勤務を取得・利用する方の業務を代替する体制整備に対する支援を強化しています。

詳細は次のページをご確認ください。
仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主等のみなさまへ(厚労省ホームページ)

(1)出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備や業務体制整備を行い、男性労働者が出生時育休を取得した場合に助成されます。

本コースは、「第1種」「第2種」の助成があります。主な要件は次のとおりです。

【第1種】(男性労働者の出生時育児休業取得)

・育児・介護休業法に定める雇⽤環境整備の措置を複数⾏っている
・育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務⾒直しに係る規定等を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしている
・男性労働者が子の出⽣後8週間以内に開始する連続5⽇以上の育児休業を取得している
〈代替要員加算〉 男性労働者の育児休業期間中の代替要員を新たに確保した場合に加算
〈情報公表加算〉 自社の育児休業の取得状況を「両立支援のひろば」サイト上で公表した場合に加算

【第2種】(男性労働者の育児休業取得率上昇)

・第1種の助成金を受給している
・育児・介護休業法に定める雇⽤環境整備の措置を複数⾏っている
・育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務⾒直しに係る規定等を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしている
・第1種の申請をしてから3事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率()の数値が30ポイント以上上昇している
 ※第1種申請年度に育休対象の男性が5人未満かつ取得率が70%以上の事業主は、3年以内に2年連続70%以上となった場合も対象


(出典:厚生労働省HP「2023年度の両立支援等助成金の概要」)

(2)育児休業等支援コース

育休復帰支援プランを策定の上、育児休業の円滑な取得・職場復帰の取組を行った場合、育児休業中の業務代替体制の整備を行った場合、職場復帰後の労働者への支援等の取組を行った場合等に助成するものです。

次の5つの要件等により助成金が支給されます。
※①~④は中小企業のみ対象、⑤は中小企業以外も対象

①育休取得時・②職場復帰時
育休復帰支援プラン(※)を策定・導入し、プランに沿って育児休業(3か月以上)の取得・復帰に取り組んだ場合
※育休復帰支援プラン・・・労働者の育児休業の取得・職場復帰を円滑にするため、育児休業者ごとに事業主が作成する実施計画。

③業務代替支援
3か月以上の育児休業終了後、育児休業取得者が原職等に復帰する旨の取扱いを就業規則等に規定し、休業取得者の代替要員の新規雇用、又は代替する労働者への手当支給等を行い、かつ休業取得者を原職等に復帰させた場合
〈有期雇用労働者加算〉 育児休業者が有期雇用労働者の場合に加算

④職場復帰後支援
法律を上回る子の看護休暇制度(A)や保育サービス費用補助制度(B)を導入し、労働者が職場復帰後、6ヶ月以内に一定以上利用させた場合

⑤新型コロナウイルス感染症対応特例
小学校等の臨時休業等により子どもの世話をする労働者のために有給休暇制度および両立支援制度を整備し、当該有給休暇を利用させた場合


(出典:厚生労働省HP「2023年度の両立支援等助成金の概要」)

(3)育休中等業務代替支援コース(令和6年1月より新設)

育児休業取得者や育児のための短時間勤務制度利用者の業務を代替する周囲の労働者への手当支給等の取組や、育児休業取得者の代替要員の新規雇用を行った場合に助成するものです。 ※すべて中小企業のみ対象

詳細はリーフレットをご確認ください。
令和6年1月から両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」を新設します

①手当支給等(育児休業)
育児休業取得者の業務を代替する周囲の労働者に対し、手当支給等の取組を行った場合
・業務体制整備経費:5万円
・業務代替手当:業務代替者に支給した手当総額の3/4、上限10万円/月 等

②手当支給等(短時間勤務)
育児のための短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代替する周囲の労働者に対し、手当支給等の取組を行った場合
・業務体制整備経費:2万円
・業務代替手当:業務代替者に支給した手当総額の3/4、上限3万円/月 等

③新規雇用(育児休業)
育児休業取得者の業務を代替する労働者を新規雇用(派遣受入れ含む)により確保した場合
  7日以上14日未満:9万円
  14日以上1か月未満:13.5万円
  1か月以上3か月未満:27万円
  3か月以上6か月未満:45万円
  6か月以上:67.5万円

このほか、④有期雇用労働者加算(1人当たり10万円、業務代替期間が1か月以上の場合)、⑤育児休業等に関する情報公表加算(1回限り2万円)があり、それぞれ要件を満たした場合に①~③の助成金に支給額を加算します。

【注意事項】
 育休中等業務代替支援コースは、令和5年度補正予算により新設された助成金です。対象となるのは、以下の場合です。
・①③の助成金
令和6年1月1日以降に対象労働者の育児休業(産後休業から引き続き育児休業を取得する場合は産後休業)が開始している場合
・②の助成金
令和6年1月1日以降に対象労働者の育児のための短時間勤務制度利用が開始している場合

※令和5年1231日までに対象労働者の育児休業(産後休業から引き続き育児休業を取得する場合は産後休業)が開始している場合は、出生時両立支援コース(第1種の代替要員加算)または育児休業等支援コース(業務代替支援)の制度が適用されます。

くるみん助成金(令和5年度)

「くるみん認定」「くるみんプラス認定」「プラチナくるみん認定」「プラチナくるみんプラス認定」を受けた中小企業(常時雇用する労働者が300人以下)に対し、助成金が支給されます。(中小企業子ども・子育て支援環境整備助成事業)

詳細は次のサイトをご確認ください。
くるみん助成金ポータルサイト(こども家庭庁所管助成事業、中小企業子ども・子育て支援環境整備助成事業)

●助成対象となる事業
次のようなる事業の実施に要する経費が対象です。
①労働者の育児休業等の取得を促進するための取組
②労働者の子育てを支援するための取組
③労働者の業務負担の軽減や所定外労働時間の削減等を図るための取組
④その他労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために必要な取組

●助成額:上限50万円

【注意事項】
令和5年度のくるみん助成金申請受付は終了しています。令和6年度の申請受付に関しては、くるみん助成金ポータルサイトでご確認ください。

企業のトップが育休取得を推進し、強い組織への変革を

この記事の最初で書いた通り育休取得は拒否権がありません。
だからこそ企業は意識を「取得を前提としてどのように対応するべきか」に変革をする必要があります。そして、男性従業員も育児休業を取得して当たり前という意識が職場に定着するように取り組んでいくことが大切です。

企業のトップがメッセージを発信し、腰を据えて改革に取り組めば、中小企業だからこそのスピード感と柔軟性で適応していくことも可能です。このタイミングで組織・業務の見直しを行い、より効率的な働き方を行う方法を模索し強い組織になる機会にしてみてはいかがでしょうか。

そのためには事前に想定される課題を洗い出し、自分たちだけでは実現できない場合はシステム・ツールの導入や助成金の活用、アドバイザーによる第三者の目を入れるなども含めた選択肢を把握しておくのが効果的です。

育休を取得できる環境では中長期的な従業員の育成計画を立てることも可能になります。
働き方改革が推進されているこの機に育休を推進できる体制を整えて企業価値を高め、新しい人材確保の足掛かりにしてみてください。